英語4技能教育研究家・オンライン英語レッスン | 鶴岡俊樹のブログ

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⑦学習者の第一言語の使用‐第一言語を使用すべきかどうか?

鶴岡オンライン英語塾

教室内で教師や生徒が母語を使うべきかどうかという問題には、まだ多くの議論の余地が残されています。

「English only movement」では、生徒の母語は教室内から放逐されるべきだとしています。

しかし、この考えに対して疑いを持ち、母語の使用を支持する意見も出されています(Weschler, Spratt, Coleなど)。

このセクションでは、母語の使用についての賛成意見、反対意見を検証し、第二言語学習のために生徒の母語を使用することが適切なのかどうかについて考察していきます。

 

Sprattは過去の英語教育における母語使用について研究し、近代語学教育の初期には(そして現在でさえ)、学習者の母語使用は「悪」とみなされていたと述べています。

とくに初級、中級レベルでは、母語の使用はinterference(第一言語が第二言語学習に悪影響を与えること。たとえば発音の訛り。negative transferとも呼ばれる)を引き起こし、また生徒を怠惰にさせ、学習のスピードを遅くすると考えられていました。

これには当時の教授法では生徒の母語を使う必要性があまりなかったという事情もあります。というのも、リーディング、ライティング、繰り返しのドリル練習など、教師中心のアクティビティがコントロールされた環境でのみ行われ、そのような中では教師も生徒も限られた範囲の英語が使えれば十分だったからです。

 

これに対し、教室での母語使用を擁護する研究者もいます。

interferenceについて言えば、Weschlerは、教師がそれを避けようといくら努力しても、生徒の母語が第二言語学習に影響をもたらすことは避けようがない。それゆえ、母語を第二言語習得に役立つ道具というように肯定的にとらえ、学習者がすでに持ち合わせている知識として、それをどううまく利用できるのか考えるほうがよいと述べています。

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Sprattは、教室の環境的な変化を指摘しています。

コミュニカティブ・アプローチ(コミュニケーション能力を発達させることを目的にした教授法の総称で、現在主流の教授法。教室を現実世界でのコミュニケーションのリハーサルの場と位置づけ、実践的な伝達能力の伸長に主眼が置かれている。)の登場とともに、多くの種類のアクティビティが導入され、生徒たちはペアワークやグループワークによってクラスメートと以前よりはるかに多くコミュニケーションするようになりました。

教室の環境が変わり、以前より広い範囲の言葉がコミュニケーションで使われるため、生徒の母語使用が必要になる状況も出てくるでしょう。生徒がある事柄を英語でどのように言ったり書いたりしていいのか分からず、自分の考えを伝えるのに苦心するようなことが起こり得るのです。

生徒だけでなく、教師にも母語を使用するより多くの機会があります。例えば教師は、生徒に何か説明をする場合、(アクティビティなどの)インストラクションを与える場合、生徒の理解度を確認する場合などに母語を使用することができます。

 

「English only」の教授法は、原理としては正しいかもしれません。しかし、それは教室の現状にそのままあてはめることができないのです。

一般的にこの教授法は、英語圏の諸国でひとつのクラスにいろいろな言語を話す生徒が混在するような状況で使われるのがよいとされています。そのような状況では、英語のみを使うことは望ましいというだけではなく、コミュニケーションには必須であるわけです。

しかし現実には、世界中の大部分の教室は単一の母語を話す生徒だけからなるクラスで(例えば、日本の中学校の日本人の生徒だけの教室)、そこではふつうノンネイティブ英語教師が、同じ言語的、文化的バックグラウンドを持つ生徒を教えているのです。

 

これらの主張に加えて、「English only」の教授法が確固とした理論や十分な研究に基づいたものであるのかを疑う意見も出されています。

前述の通り、「English only」の考え方は、そこから最大の利益を得ることのできるネイティブ英語教師によって都合よく解釈され、利用されていると考えられます。

そしてもっと確実に言えることは、「English only」は、それが効果的な語学教授法であるからというより、ネイティブ英語教師が生徒の母語をほとんど理解しないことに対する言い訳として使われているのです(Cole, Weschler)。

 

これらの議論を見たところ、学習者の母語の使用を捨て去る理由は何も見当たらないようです。

それどころか、母語使用には多くの利点があり、より効果的な学習のために母語はむしろ積極的に使われるべきだとする意見があります。

次のセクションでは母語使用の利点について考察します。

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【論文】ネイティブ教師VSノンネイティブ教師(目次)

①ネイティブ英語教師とノンネイティブ英語教師、どちらが優れているの?

 

ESL Learners’ Perceptions of Non-Native English Speaking Teachers

②論文全体の要旨

③イントロダクション要旨

 

第1章・・・これまでの研究(抜粋)

④ノンネイティブ英語教師の直面する問題

⑤The Native Speaker Fallacy

⑥研究者、教師の考えるノンネイティブ英語教師の強み

⑦学習者の第一言語の使用‐第一言語を使用すべきかどうか?

⑧第一言語を使用する利点

⑨Medgyesの研究と6つのノンネイティブ英語教師の強み

 

第6章・・・結論と示唆(抜粋)

⑩この研究の要旨

⑪教育学上の示唆